自筆証書遺言とは

15歳になると遺言書が作れるようになります。

そういえば中学3年の時、遺言書を書いてみよう、というような授業を受けたような気もするのですが、何十年も前のことなので記憶が曖昧です・・・。

とにかく15歳になり、意思能力があれば遺言書を書くことができます。

そして自筆証書遺言とは、文字通り自分の字で書いた遺言書のことです。

実際には細かい決まり事や、実は自筆で書かなくて良い部分があったりします。

いつでも内緒で簡単に作ることができてしまうので、実際には偽造や変造されやすかったり、見つけてもらえなかったり、無理やり書かされたんじゃないかと疑われたりと、かえって争いを招いてしまうこともあります。

また、民法に規定されている遺言書の要件が満たせていなかったために無効になってしまったり、書いてある内容がいまいち不明瞭で結局手続きが進まなくなってしまったりなど、実際のところ問題点が多い遺言書がこの「自筆証書遺言」になります。

そもそもどんな事を遺言書に書けばいいの?

そもそも遺言書には何を書くのも自由だと思いますが、最低限のことを理解したうえで作成されるのが良いと考えています。

その理由の一つとして、最低限の知識もなく自筆証書遺言を作成してしまうと、かえって争いを招く可能性が増えてしまうことになるからです。

例えば、あなたが農業を営んでおり、跡取りの子供が2人いたとします。

長男は昔から働きもせず、毎日親の金で遊び歩き、家業を手伝うことも一切ありませんでした。

片や次男は、真面目で人当たりも良く、毎日欠かさず家業を手伝ってくれておりました。

あなたは次男に家業を継いでほしいので、遺言書にこう書きました。

「すべての財産を次男に相続させる」

あなたが亡くなった後、この遺言書のとおり次男が手続きを進めていたところ、ある日長男が次男の元を訪れこう言いました。

「その遺言書は親父の本心じゃない、お前が書かせたものじゃないのか?それに字もよく見ると親父のものと違う気がする。万が一、その遺言書が本物だったとしても、俺には法律で保障されている権利があったはずだ」と。

こうなってしまうと相続は争族へと変貌し、泥沼化していきます。

遺言書の有効無効を争って裁判にまで発展することもありますし、長男が法律で保障された権利(「遺留分」といいます)の請求をしてきた(「遺留分侵害額請求」といいます)ため、家業の継続に必要な財産を取り崩す必要がでてきてしまうこともあります。

もしあなたに自筆証書遺言を作成する際の最低限の知識があれば、争いが起きにくくなるような配慮できていたかもしれません。

ですので遺言書を作成する場合は、最低限のことは理解されたうえで、あなたの望みを実現することができる遺言書を書いてください。

それでは、実際に自筆証書遺言書を作成するにあたって、どのような点に注意すべきかを見ていきましょう。

自筆証書遺言をする際に注意すべきこと

自筆証書遺言を作成するにあたり気を付けていただきたい点として次のようなものがあります。

 ①民法の定める形式に適合しているか

 ②遺言の内容がキチンと理解され区別して書かれているか

 ③遺留分や相続税の支払いに対する配慮がなされているか

特に①の民法の定める形式に適合しているかどうかという点は、自筆証書遺言の有効無効を大きく左右する部分でもありますので、常に意識しながら作成するようにしてください。

なお、2020年7月10日から法務局で開始されている「自筆証書遺言書保管制度」というものを利用することにより、この民法の定める形式に適合しているかどうかについて法務局でチェックしてもらえ、他にも様々なメリットがありますので、自筆証書遺言を作成された場合に利用されるのは非常におすすめになります。

  ▷自筆証書遺言書保管制度について詳しく知りたい方はコチラ

民法の定める形式に適合しているか

自筆証書遺言の作成にあたって、民法の定める形式には次の6つがあります。

1.全文を自書すること(添付する財産目録は除く)

必ず自分自身の字で全文を書かなければなりません。

長文になると書くのも大変なのでパソコンで作成してしまったり、利き腕が不自由なので家族に代わりに書いてもらったり、読み上げて録音したものや録画で残したものなど、その気持ちは伝わるかもしれませんが、遺言書としては機能いたしません。

他の遺言書のように作成時に証人がいるわけではないので、筆跡が証拠であり、そして第三者の不正や偽造を防ぐ手段でもあるのです。

近年の改正点

2019年1月13日から相続財産の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録は自書しなくても良いという取り扱いになりました。これにより遺言書の本文には、「長男である魚津太郎丸(昭和27年4月1日生)には別紙財産目録第1記載の不動産を相続させる」というような記載のみにし、パソコンで作成した財産目録を別紙として添付するということが可能になりました。他にも財産目録として、通帳のコピーを付けたり、不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)を添付したりすることもできます。この場合の注意点として、必ず添付する財産目録の各ページごとに署名と押印が必要になるということです。

2.作成した日付を正確に自書すること

必ず遺言書の中に作成した日付を正確に自書しなければなりません。

「正確に」というのがポイントで、「2022年4月1日」や「令和4年4月1日」というように記載することが大切です。

間違っても「令和4年4月吉日」と記載してはダメです。

これは正確な日付の特定により、その時点での遺言者の遺言能力の有無を判断したり、複数の遺言書が出てきた場合にどの遺言内容が優先されるのかを判断するためだとされています。

前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなされます。他にも遺言後にした生前処分や法律行為でも抵触する部分については、撤回したものとみなされます。

令和4年4月1日に「すべての財産を長男に相続させる」という遺言書を作成した後に、同年5月1日に「別紙財産目録第1記載の不動産を次男に相続させる」という遺言書を作成した場合で考えてみましょう。

この場合、すべての財産とそのすべて財産の一部である別紙財産目録第1記載の不動産という部分が抵触することになります。

先にすべての財産を長男に相続させるとしていますが、後の遺言で一部の不動産については次男に相続させたくなったことが読み取れます。

そうすると一部の不動産は次男が相続し、それ以外のすべての財産は長男が相続することになります。

もしこの日付が逆であったら、すべての財産は長男が相続することになってしまいます。

このように、日付の記載は民法の定める要件を満たす以外にも重要な役割がありますので、必ず正確な日付の自書を心がけてください。

3.氏名を自書すること

遺言書に氏名を自書する必要があります。

可能であれば住民票を取得し、住民票記載の住所氏名を書き写すことが望ましいです。

芸名やニックネームなども過去に認められた例がありますが、可能な限り正確な氏名のご記入を推奨いたします。

4.印鑑を押すこと

遺言書に氏名を書いたあとは、その後ろに必ず印鑑を押しましょう。

この印鑑は認印でも実印でも拇印でも可能ですが、できれば実印を押すことが望ましいです。

家紋や花押を書いて押印とすることは現在のところ認められていないので、ここは素直に印鑑を押してください。

5.共同で遺言書を作成しないこと

遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることができない、と民法で定められています。

夫婦で同時に遺言書を作成する場合でも、必ずそれぞれ違う紙を使って作成するようにしてください。

同じ紙に書かれていても、両者が容易に切り離したりすることができる場合には共同遺言に該当しないとした裁判例もありますが、わざわざリスクのある方法を取る必要もないので、遺言書はそれぞれ別の紙を使って作成するようにしましょう。

6.訂正の方式が民法に定められた方式に適合していること

自筆証書遺言の訂正の方式は、民法において厳格に定められています。

自筆証書遺言書や添付する財産目録に、文字を加えたり除いたりその他変更をした場合には、遺言書はその場所を指示して、変更をしたということを書き示したうえで署名、さらに変更した箇所には押印をしておかなければ、訂正の効力が生じないことになります。

この場合の押印は、氏名の自書の後に押印した印鑑と同じ印鑑を使いましょう。

このように自筆証書遺言書の加除訂正方法は難しいので、下記リンクから詳しく説明させていただきます。

  ▷自筆証書遺言書の加除訂正方法について詳しく知りたい方はコチラ

遺言の内容の区別

遺言書を作成する際には、次のことを区別して考えておくことが大切です。

  • 遺言書に書いて法的な拘束力を持つもの(法定遺言事項)
  • 遺言書に書いても法的な拘束力を持たないもの(付言事項等)
  • そもそも遺言することができないこと

遺留分や相続税の支払いに対する配慮

兄弟姉妹以外の相続人には、遺留分という権利があります。

これは、残された相続人に法律が認めた生活の最低保障ともいうべきものです。

例えば、あなたが妻や大勢の子供のいる一家の大黒柱であった場合に、その遺言書に「大変お世話になった○○さん(住所△△)に、すべての財産を遺贈します」と書いてあったとします。

実際にあなたが亡くなった際、このとおりに遺言を執行してしまうとどうなるでしょうか。

残された妻や子供たちは路頭に迷うことになってしまいます。

このため、兄弟姉妹を除く相続人となるべき者には、被相続人の相続財産に対して一定の割合で請求をしていくことが認められており、法定相続人が誰になるかによってその主張できる権利の割合が定められています。

この権利を持っている相続人のことを、遺留分権利者と呼びます。

遺留分権利者が主張できる権利の割合の計算方法は、遺留分を算定するための財産の価額に、次の区分表に応じてそれぞれ定める割合を乗じて計算をします。

ちなみに遺留分を算定するための財産の価額とは、原則として、次の計算式から求めることができます。

遺留分を算定するための財産の価額

遺留分を算定するための財産の価額=すべての相続財産+相続開始前1年以内にした第三者に対する生前贈与の額(※)+相続開始前10年以内にした相続人に対する生前贈与(特別受益に該当する場合に限る)の額(※)ー相続債務

※各生前贈与において、贈与の当事者双方が、その贈与をすることにより遺留分権利者に損害を与えることを知ったうえで贈与をしていた場合には、それぞれ定められた期間以前にされた贈与も対象になります。

各相続人が主張することができる遺留分割合の表
相続人遺留分
配偶者のみ1/2
直系卑属(子供や孫のこと)のみ1/2
直系卑属+配偶者1/2
直系尊属(両親や祖父母のこと)のみ1/3
直系尊属+配偶者1/2
兄弟姉妹のみなし
兄弟姉妹+配偶者配偶者のみが1/2

このように遺留分を配慮して遺言をしておかないと、相続財産を承継した者が遺留分権利者から遺留分侵害額請求を受けることになり得るので、争いの種になってしまいます。

せっかく遺した遺言が元で家族が揉めてしまうのは悲しいですよね。

あなたの財産をどのように処分するかは、あなたが自由に決めれることですが、遺言書を作成する場合には、このような事も考えながら作成されることをお薦めいたします。

また、相続税の支払いに関しても配慮されるのが望ましいと思われます。

財産が大きく、相続税の申告が必要となる場合に、あまり偏った財産の配分をされてしまうと、納税資金が足りなくなってしまうこともあります。

事前に税理士さんと相談されたうえで、相続財産の配分等を決められた方が良いと思われます。